僕と猫とナイフ-page3儚い夢の傷跡
彼には名前があるのだろうか。
見たところ、一人身のようなのだし、僕は彼と話す事が出来ないので彼の名前は気にしない事にした。
僕も、名前はあるようで無いに等しいのだから。
「初めまして。」
彼は、食パンをパクパクと美味しそうに食べている。
それでも、僕が話しかけると、ちらっと僕の方を見てくれる。
「君は独り?」
僕は、家出してきたんだ。
別に、喧嘩したわけじゃないよ。ただ、家にいることに飽きただけ。」
気付けば、僕はその彼に語りかけていた。うっとうしく思うことも無く、特に気にかけるでもなく、彼はまだ食パンを食べている。
僕は、今までの経緯について、珍しく流暢に語っていた。
いつも、人前や、他人と会話をするときは、やや控えめに、どちらかと言えば相手の話を聞く聞き手として、会話に参加しているのだけれど、今は僕しか話をする人は居ないし、彼が話しかけてくれたとしても、僕には彼の言葉を理解する事が出来ないから。
彼に色々と話し掛けているうちに、ふと気付いた事があった。
雫が、頬を伝って、川辺のアスファルトへ吸い込まれていた。
そんな事も気にせずに、また彼に話しかける。
―温かい…。とっても温かい…。―
頬を伝っていたはずの雫は、今は彼が飲んでしまった。
ペロペロと、ザラザラした舌を僕の頬にくっつけて優しい眼をした猫が、涙を飲み干してしまった。
そんな彼の眼を見ているだけで、心が洗われて行く気がする。
遠い遠い昔の、温かい心に触れた気がしたから。
外は暗くなって、一番星が空に輝く頃。
月明かりに照らされて、僕は自分の部屋に居た。
「今のは…。」
夢ではないようだ。
まだ頬にはザラザラの舌の感覚が残っている。
手に握り締めたナイフ。
淡く滲む赤い血。
ズキッと痛む手のひらは、僕の心の痛みのようだった。
>後書き
今回のこの作品、『僕と猫とナイフ』ですが、如何だったでしょうか?
物凄く、衝動的に(と言うより本能でw)スラスラと書いてみたんですが、結局何が言いたかったのか、自分でもわからずじまいですorz
とにかく、果てしないほどの駄作になってしまいましたが、ここまで読んでくださってありがとう御座います。
出来れば、感想なんかいただけたりすると今後の活力になったりしますので、お時間のある方は宜しければ気軽にbbs等に書き込んだりして下さると嬉しいです。
それでは、本当に最後まで読んで下さってありがとう御座いました。